一道下遺跡-出土遺物 第2弾-
北杜市須玉町大蔵地内の一道下遺跡では、奈良・平安時代の竪穴建物跡135軒、掘立柱建物跡22棟、溝状遺構18条、柵列13列などが発見されました(詳細は前投稿記事参照)。
今回は、前回に引き続き、発掘調査にて出土した主な遺物を紹介します。
焼印「斗」と墨書土器「斗」
9世紀後半の大形竪穴建物跡(42号竪穴建物)から、山梨県では3例目となる「焼印」が出土しました。全長約40㎝、印面は縦13㎝、横10㎝で、県内では最大です。X線撮影の結果、焼印の文字は「斗」であることが分かりました。同建物内からは「斗」の墨書土器が複数出土しており、この家を示す標識的な字であった可能性があります。
焼印は牛馬や木器、木製品に用いられたと考えられています。大きさなどによる厳密な使い分けは明らかになっていませんが、『類聚三代格』「延暦15年(796)2月25日」の太政官符には、私牧(国以外が運営する牛馬生産用の牧場)の焼印は「長二寸、廣一寸五分以下」と規定され、同法量を超えるものは牛馬用の可能性が高いとされています〔田中2020〕。このことから、本遺跡出土の焼印も牛馬用の可能性があり、古代の牧との関連が示唆されます。
【参考文献】
田中広明 2020「牛馬に用いた焼印」『大正大学考古学論集』175-186頁 大正大学考古学論集刊行会
以上、3回にわたって発掘調査によって発見された遺構、遺物を紹介しました。その結果、一道下遺跡は役人とのかかわりが深い有力者が暮らす、地域の拠点的な集落であった可能性が出てきました。また、分銅や焼印の存在から、本遺跡に暮らした人々は何らかの特別な役割を担っていたと考えられます。
一道下遺跡発掘調査の本格的な整理作業は、令和5年度以降実施します。今後、整理作業の進展による新たな発見が期待されます。